第1部では一般社団法人さくら税務実務研究所研究員遠山敏之氏(写真)が「相続税申告の“ツボ”」をテーマに、相続税申告書の記載ポイント、税務署の「お尋ね」の狙い、相続税対策などを解説した。 はじめに平成23事務年度相続税実地調査実績の参考資料から東京局と全国の平均的な相続税調査を比較。海外資産の調査実績については、相続人の中に海外に居住する「非居住者」が1人でもいれば、海外資産の存在と海外資産の中で申告漏れの可能性があるとして調査対象に選定されやすいと話した。当局側の海外資産関連調査の狙いは、次回の調査の為の情報収集であるため、申告漏れに至る手法も貴重な情報源となっているようだ。 税務署からの「お尋ね」に関する解説では、法定調書との関連で、平成24年1月1日以降の譲渡を対象に200万円超の取引には支払い調書の義務が発生した金地金等の譲渡対価の支払い調書について、金地金等の譲渡は生活に支障のない取引とされるので「譲渡損の時は通算できない」と解説。 次に国際課税関係の改正(国外財産調書制度の創設)に関して、遠山氏の顧問先が実際に遭遇した国外取引に関する事件を紹介した。海外で購入した株が上場し、米国や某アジアの国で運用していたことが、故意に事実を隠した海外取引の無申告として当局から仮装隠蔽とされた。だが納税者が主張した「米国で源泉されていたと勘違いしていた」との反論が認められ、修正申告に応じるかたちで治まったそうだ。 当局からくる「お尋ね」を無視すれば当然、調査対象にされる可能性は高まるが「お尋ね」に対する返答率は必ずしも100%ではないことも遠山氏は明らかにする。またこの「お尋ね」に関する当局の狙いとは、当局側が得る市区町村からの死亡通知以外の不足した情報である不動産の有無や相続人の人数の把握なども目的であると遠山氏は語る。つまり「お尋ね」によって基礎控除以下か否かが判断できるため、申告書発送の手間を省く便宜上の目的も含まれていると言う。「お尋ね」の話は、実情を知る国税OBならではの貴重な話として参加者の心を特に惹きつけていたようだ。 参加者からは「実務の話が聞けてよかった」「やはりOBからの情報は非常に貴重だ」などの声があった。 申告書の基礎的なポイントから法定調書の説明、かつての租税回避に対する税制見直し、基本的な対策まで、限られた時間の中で申告書の要点を押さえた内容となった。 |