5月17日、都内で「会計事務所が知っておくべき自社株対策のカギ」を開催した。講師は事業承継・自社株対策の分野で著名な牧口晴一税理士(牧口会計事務所)で、事例を交えながら事業承継の勘所を解説した。 自社株の適正な時価の算定は、税務・会計のプロである会計事務所にとっても難しい分野とされ、税理士でも苦手にする人が少なくない。その理由について牧口氏は、通達までたどらないと算定の考え方が把握できない点を挙げた。 特に個人が法人に譲渡するケースが最も多くの問題をはらんでいることを指摘し、前後半通じて「退社した元役員から株式買い取りの申し入れが口頭であった際の対処」といった事例をベースに説明を続けた。 まず、元役員などから株式の譲渡承認請求があった場合、取締役会がある会社は取締役会、取締役会がない会社は株主総会の決議で承認決定をしなければならない。ただし、定款で「代表取締役が決定する」などと別段の定めをすることもできる。牧口氏は「1人ですぐ決められるので、オーナー経営になじむ」として、定款変更を勧めた。 譲渡の具体例としては、時価純資産価額10億円の株式を会社が買い取るケースで、個人株主との協議で3億円での譲り受けになった場合を取り上げ、その問題点に言及。「顧問税理士は10億円から3億円に下がったことで役割を果たしたように思ってしまうが、トラブルの種は残っている」と問題提起をした。具体的には、譲渡した株主に「みなし譲渡」や「みなし配当」、住民税、オーナーら株主には「みなし贈与」などが掛かってしまうことで、納税資金の問題などが生まれてしまうそうだ。 こうした問題点を指摘したうえで、理解しづらい通達の解釈を可能な限り分かりやすく説明し、時価の求め方の基礎を解説した。 後半は自社株対策に関するリスク管理について紹介した。 企業は「株主平等の原則」がある以上、特定の株主の株を自由に直接買い取ることはできない。牧口氏は会社が株式を取得する方法として、@譲渡承認請求してもらう、Aミニ公開買い付け、B特定の株主からの取得、C相続人等から取得――の4つを紹介。それぞれの特徴について、@は特定の株主から買い取れる「お勧めの方法」、Aは一斉に買い集めるには便利だが、特定の株主に絞ることはできない、Bは必ずしも特定の株主から買えるとは限らない、Cは相続人に限られてしまうなどと解説した。 事例のようなケースでは、元役員は発行企業と示し合わせ、第三者に譲渡承認請求を出し、会社はそれを認めない代わりにオーナーを指定して買い取らせたり、または金額が大きくて買い取れない場合に会社が自己株式として取得したりする方法を「講師のお勧め」と披露した。 さらに、自己株式の取得体系を整理したうえで、買い取り価格がオープンになる「特定の株主からの合意による取得」に比べ、「譲渡承認請求」が便利であると結論付けた。 また、会社が「株式を一挙に取得する方法」として、全部取得条項付種類株式導入や合併後の組織再編、端数処理などで排除する方法も紹介した。 参加者からは、「株式の時価についての認識を深めることができた」「自社株を譲渡する際のリスクに気付かせてもらえた」「ちょうど相談を受けていたので、タイミングがよかった」などの声が多数寄せられた。 |