認知症の母の生活費が足りなくなったので、母名義の不動産の売却を検討している。しかし認知症によって意思能力がないと判断されてしまうと、不動産売買契約を結んでも無効となってしまう。ではこの不動産はどうやっても売却できないのだろうか。
このようなケースでは、家庭裁判所に「成年後見人」を選任してもらうことで、代わりに売買契約を締結することが可能だ。
不動産売買契約などの契約が有効とされるには、契約の当事者に判断能力(意思能力)があることが前提だ。認知症と診断されると本人に意思能力がないとされてしまい、財産を処分できない。そのため認知症になってしまった人の不動産を売却するには、代わりに財産管理をする成年後見人の選任手続きを家庭裁判所で行う必要がある。
成年後見人は、本人に代わって財産管理や介護施設入所への契約、また遺産分割の協議などを行う。成年後見人は3つに分類され、本人に判断能力がまったくないなら「後見」、判断能力が著しく不十分なら「保佐」、判断能力が不十分なら「補助」となる。後見人になれるのは親族のほか、弁護士、司法書士、社会福祉士、法人、市区町村長など多様だ。成年後見制度の申し立てることができるのは、本人や配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、市区村長などとなっている。
高齢社会化に伴い、認知症患者は増える一方だ。そのぶん、成年後見制度の重要性も増すばかりだが、同制度の持つ独特の硬直性が課題との指摘もある。成年後見制度では後見を受ける人の保護を図ろうとするあまり、後見人が動かせる財産の裁量が細かく規制されている。原則的に本人の財産が減少する可能性のある投資や運用はできず、他者への生前贈与などもできない。あくまで「財産を維持しつつ本人のためになること」にしか財産を動かすことはできず、たとえ相続対策や会社の経営のために必要な取引であっても相当の困難を伴うという短所がある。
制度の硬直性については国も認識しているのか、2016年には後見人の権限拡大を認める促進法が施行されている。これにより被後見人あての請求書などの郵便を直接開封でき、被後見人の死亡後、相続人に引き継ぐまでの債務弁済なども行えるようにはなった。