遺言を書いても安心できない遺留分の罠  最低限の取り分は用意しておきたい

 亡くなった人が遺言を作成していなければ、遺産をどう分配するかは遺産分割協議によって決める。協議の成立には相続人全員の合意が必要となり、相続人の中に1人でも異議を唱える人がいれば協議は成立しない。その場合は裁判所での調停・審判などによって決着するしかない。
 父母や配偶者、子など一定範囲の法定相続人には「最低限の遺産を取得できる権利」である「遺留分」が存在する。民法は、遺言で相続割合を自由に決定できると認める一方、「遺留分に関する規定に違反することができない」とただし書きを付けている。
 死亡時の相続財産だけではなく、特定の相続人へのまとまった額の生前贈与についても、「特別受益」として遺留分の計算基礎となる財産に加えられる。
 ある企業では、先代経営者が生前に自社株式100%を後継者である長男に生前贈与し、他の事業用資産についても遺言書を作成して長男に引き継ぐ旨を明記していた。すると死後に長女から「遺言の内容に納得できない。後継者に生前贈与された自社株式を含めて遺留分を侵害している」と主張されたという。後継者である長男への自社株式の贈与は死去の5年前に行われ、すでに贈与税の納付も済んでいたというが、残念ながら長女の請求は正当なものだ。長女を説得できない限り、長男が遺留分侵害額を用意して渡さなければならない。こうした相続トラブルを防止するためには、遺留分まで考慮した遺言を作成したり、遺留分に相当する金銭をあらかじめ準備したりしておくことが重要になる。


TAXワンポイントへ戻る