民法では「私権の享有は出生により始まる」(第3条第1項)と、母親のお腹の中にいる胎児は権利義務の主体にはなれないことが定められている。だが相続では、妻の妊娠中に夫が死亡した場合、その後に生まれた子どもは亡くなった父親の相続人として財産を受け取れる。
一見、矛盾する両規定だが、胎児の権利は民法が原則だ。もしも生まれる前から一般人と同様の権利があれば、胎児であっても売買や貸付、贈与も可能になり、あまりにも現実的でなくなる。人としての権利が認められていないため、仮に妊婦が殺害されても、被害者は「一人」だ。
民法の原則どおりに考えるなら、第一子を妊娠中の妻を残して夫が死亡すると、夫の遺産は妻が3分の2、夫の両親が3分の1という割合で分割される。一方、出生後に夫が死亡すれば、妻と子どもが半分ずつを相続する。両者の時間の差による不合理を避けるため、民法では「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と特別ルールを定めている(886条)。これが、被相続人の死亡後に出生した子どもにも相続権があることの根拠となっている。