海外にある関連会社に自社商品を通常の取引価格よりも低い価格で販売すると、課税所得が減少して法人税負担も少なくなる。一方、海外の関連会社からすれば日本の本社から商品を安く仕入れることで調達コストを抑え、利益が増える。ただし、課税対象額が増加する分、当該国での税負担は増える。結果、本来なら日本の本社の利益となる部分が関連会社に移転し、税収も海外へ移る。
こうした課税所得の海外移転を防ぐため、グループ間での取引価格が一般的な価格に比べて不当に安価、あるいは高価であると判断された場合、そこに課税逃れの意図があったかどうかにかかわらず、一般的な価格に計算し直して、移転された利益部分に追徴課税するというルールが「移転価格税制」だ。
1986年の制度導入時に対象として想定していたのは世界中に子会社を持つ大企業だったが、経済のグローバル化が進む中で多くの中小企業の顧問先が海外に関連会社を設立するようになっている。だが、企業規模に応じて適用を免除する除外規定などは設けられていないため、すべての顧問先が課税対象となり得る。
近年、多くの企業が移転価格税制による申告漏れを指摘されている。最近では6月に、東証プライム上場のエレベーター大手「フジテック」(滋賀・彦根市)が、国内で計上すべき所得を海外子会社に移したとして、大阪国税局から約20億円の申告漏れを指摘された。追徴税額は約6億円。海外子会社から徴収したロイヤルティーの料率が不当に低いとして、移転価格税制が適用された。
5月にも、スポーツ用品大手のヨネックス(東京・文京区)が、22年3月期までの4年間で約11億円の申告漏れを東京国税局に指摘された。アジアにある子会社に対して自社のスポーツ用品を販売した取引について、販売価格が不当に安すぎると判断されたという。同社は約2億円の追徴課税を受けた。
過去には、IHI(東京・江東区)が海外のグループ会社との取引で移転価格税制を適用され、約100億円に上る巨額の申告漏れを指摘されたケースもある・・・(この先は紙面で…)