財団法人UFJベンチャー育成基金審査委員長などを通じてベンチャー支援に取り組んできた堀場は、2003年、堀場製作所の創立50周年を機に社外の研究者を対象とした 研究奨励賞「堀場雅夫賞」を創設した。能力と情熱と行動力の必要条件に、カネとマーケットと継続の十分条件。 しかし、なかでも、ベンチャー乱立の現在、モノづくりベンチャーにはテクノロジーとマーケットのマッチングがキーポイントになる、と堀場は力説する。

今はすべてがパーフェクトでなければ商売にならない時代です。まず、自分にそれだけの能力がなければならない。 次に、絶対に成功させるという情熱がなければならない。 さらに、能力や情熱を形にする行動力がなければならない。能力と情熱と行動力。しかし、これらは必要条件にすぎないんですよ。

では、十分条件は何かというと、まずは商売をするためのおカネとマーケット。そして、最も重要なのは継続です。

モノをつくって、それを納める。ここで何か問題があれば、説明や修理に出向かなければなりません。加えて、常に新しい製品を提供し続けなくてはなりません。 最近は地味とか着実とか堅実とかいう言葉を忘れて、会社が赤字でも設立から2、3年で上場する会社がありますが、私にはそんな恐ろしいことはできません。 というか、私には信じられないことです。最初から自社株の高値売り逃げが目的の、詐欺のような商売をするというなら話は別ですけどね(笑)。

本来、上場というのは恐ろしいものなんです。いくら自社の株価を高くしたいと思っても、買ってくれる人がいなければダメですよね。1株1000円で買ってくれ人は、それが1200円になれば喜んでくれる。1200円で買った人は、1400円になならなければ喜んではもらえません。 株価が下がってしまえば「この会社はダメだ」というマイナス評価が広がって悪循環に陥ってしまいます。

新しい製品を世に出しながら、市場に受け入れてもらい、成長をしなくてはならない――ここがモノづくりベンチャーの難しいところですね。

堀場 雅夫

起業3〜5年目で試される 経営者の資質

京都には市がスポンサーになっている「目利き委員会」というベンチャー支援システムがあります。50人ほどの専門家が技術や財務や経営者などを粗審査して 年間10件くらいの候補が残るんですが、最近の委員会で指摘されているのが「技術は面白いがマーケットがない」という問題です。

能力も情熱も行動力もある技術者なり研究者はいても、評価すると「大変なモノをつくったな。けど、ウチはいらん」というものが多い。 つまり、それを事業化し成功させるにはロールスロイス級のエンジンを開発しただけではダメで、それをコンパクトに搭載して100万円台の車をつくことができるかということになるんですよ。こうしたテクノロジーとマーケットをいかにリンクさせるかが、モノづくりベンチャーを成功に導く大きな秘訣の1つになっています。

そして、それが「継続」という問題へとつながっていくのですが、たいてい起業して3年くらいで最初の壁にぶちあたります。起業から3年目から5年目くらいからは、最初からあった技術力だけで走ってきた起業家が本当の意味での経営を求められるのがこの時期です。

具体的には次のステップに上がるためにどのようにマーケットを広げるか、そのための資金をどうやって調達するかということですね。要は経営全般にわたるマネージメント力が試されるのがこの時期なのです。そして、多くの起業家は一過性の成功を手にして最初の借金を返して小金をためたらお手上げになっています。つまり、次のステップへの青写真が描けていないのです。

そこで多くの起業家は、いろいろな分野に手を出そうとしてしまうのです。しかし、ベンチャー企業はつぎ込めるおカネとヒトは限られているのですから、それをどこに投入するか、そのヒントとなるのが「錐の理論」なのです。

堀場 雅夫堀場 雅夫 (ほりば・まさお)

1924年、京都市生まれ。45年京都帝国大学理学部時代に「堀場無線研究所」を創業。国産初のガラス電極式pHメーターを開発し、53年「堀場製作所」を設立し、同社を分析機器のトップメーカーに育て上げる。 61年医学博士号を取得。78年会長、2005年取締役を退任し、同社最高顧問に就任。京都商工会議所副会頭、日本新事業支援機関協議会代表幹事を務め、 2003年、堀場製作所の創立50周年を機に社外の研究者を対象とした研究奨励賞「堀場雅夫賞」を創設し、起業家、研究者の育成、サポートを行っている。
著書に『イヤならやめろ!』(日本経済新聞社)、『出る杭になれ!』(祥伝社)、『堀場雅夫の社長学』(ワック)など多数。