新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年2月半ば、国税当局はそれまで行っていた実地調査を全面的にいったんストップさせるという対応を採った。当局は同年秋ごろに感染者数が減り始めたとして再開させたものの、それ以降も新型コロナのパンデミックは収まらず、人数や日程を制限せざるを得ない状況が長く続いた。調査をするにしても、「会話は一定程度の距離を保つ」「人数や滞在する時間を可能な限り最小限にする」などいかにもやりづらく、さらに「新規感染者が増勢にあるうちは来てほしくない」「経理担当者にコロナの疑いがあり当分対応できない」などの納税者の訴えもあり、当局にとっては身動きがほとんど取れないような状況だったといえる。こうした状況は実際の調査件数の推移にも表れていて、法人税および法人の消費税の実地調査をみると、それまで年間9万件超で推移してきたところが、コロナ禍が発生した19事務年度を境に2万件程度まで激減している。
そうした状況に変化が生じたのが昨年だ。5月に新型コロナが感染症法上の5類に移行され、社会も「脱コロナ」に向けて動き出した。新型コロナはその後、完全に収束はしていないものの、現在ではほぼ以前の日常が戻ってきたと言ってもよいだろう。当局も実地調査を再開し、 22年7月〜23年6月の法人税および法人の消費税の実地調査件数は、5類移行後の期間は2カ月弱しか含まれていないにもかかわらず、実に前年同期の1.5倍増となる6万2千件まで増加している(グラフ)。
税務当局は毎年7月から6月までを「事務年度」として、一般に使われる4月から3月の「年度」と区別している。新年度が7月に始まり、あいさつ回りや前任者からの引き継ぎ、調査の下準備を経て9月から年末にかけての「秋の調査シーズン」に突入する。この時期の調査は大きな不正を発見しようと調査官が意気込むため、秋こそが税務調査の本格シーズンともいわれるゆえんだ。
その一方で、2月から3月にかけての個人の確定申告という、当局にとっての最大のイベントを終えてやってくるのが春の調査シーズンだ。4月から事務年度末である6月にかけて行われるため、通称「ヨンロク」とも呼ばれ、各調査官がノルマ達成のために必死でラストスパートをかけてくる時期となる。しかも昨年のヨンロク調査は、新型コロナの5類移行が5月の連休明けであったため、実質的にはシーズンの半分ほどしか調査官が動けなかった面は否めない。そういう意味では今年こそが、万全の状態で精鋭調査官がスタートダッシュをかけられるコロナ後初のシーズンとなるわけだ・・・
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